川喜多喬&アソシエイツ

川喜多喬
川喜多教授
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キャリア、ボランティア、仏性 プリント
奈良教育大学のシンポジウムに招かれて基調講演をさせて頂いた。  全国あちこちから、(たぶん私がまだキャリアデザイン学部の教員だと誤解して)講演の依頼が来る。ありがたいことであるが、すっかり病弱になっているので、普通、お断りしてきた。が、奈良教育大学で、キャリア発達とボランティアという、好いテーマを設定されたので、お伺いしてきた。

ボランティア・ステート(ボランティア州)というのはテネシー州の俗称で、一八一二年からはじまった米英戦争のさいに、義勇兵(ボランテイア)が多かったのでそう呼ばれるようになった。つまりボランティアとはもともと国のために生死をかけて戦う義勇兵である。

むろん、いまや国のために・・・などというキャッチフレーズはしばしば怪しげな出所を持つ。が、ひとのために・・・という気持ちをもって生きることは好いことである。

で、キャリアの話に移る。キャリア、キャリアと若者に言うと、うっかりすると個人の栄達、キャリア・アップ、キャリア・サクセス、自分が「勝ち組」に入ること・・・というエゴイズムを助長しかねない。そういうものだ、と考えさせると、ボランティア経験はキャリア教育と無縁なものと考えられかねない。

それは、おかしい。

多くのキャリアは、他人との協働によってなりたつ。例えば、サービス業はお客様のために、という基本を忘れては怪しげな商売になる。組織もそうである。先輩同僚後輩と助け合って仕事はできる。人のために、というのは多くの起業家の精神でもあって、最近の、六本木あたりにマンションを持つことで脚光を浴びるセレブとは違う志である。

さて・・・今回のシンポは、奈良教育大学が行った。ここにまず値打ちがある。法政で言えば、教育者を持って任ずる幾人もの教員からキャリアとか職業とか、怪しげな実利を言うな、下世話だと言われたことがある。が教員は、自分の手を離れても飯を食えるように、学生を育てるためにいるのではないか。

怪しげかどうかわからぬが、実利に関わる職業的実力がなければ大抵は食っていけぬ。わが同僚達は誰から収入を得ているつもりであろうか? 教員志望者の学生だって、収入を伴う、教員というポストに就職しなければ、教育という、キャリアの理想すら実現できぬ。

とはいえ・・・教員の就職が(いや他の職業への就職でも)、いわゆる「就活」だけをすればなんとかなるようでは、実は困る。厚化粧型の就職支援でも困る。そこで奈良教育大学が学生の地域や職場との関わりを重んじたボランティアに力を入れているのが結構なことなのである。

本当にそのポストで力を発揮し続ける、その基本的な力は、一見、就活と無縁なボランティア活動で、実はちゃんと身につく。

しかり、発表して下さった学生、院生を見れば、いずれも、学校だけではない、人材を求める優れた組織であれば、直ちに合格通知を出したいぐらいの経験談をばきちんと人前で語れる力を育てた人たちであって、たいへん感激をしたのである。
そのボランティアの学生達をコーディネートしている教育委員会、受け入れた学校の校長先生、民間NPOのリーダー、もちろん奈良教育大学の教職員の方々、ことごとに立派である。また学んだ今一つのことは、華やかな東京の官庁街オフィス街にいては見えぬ疲弊する地方のコミュニティに生きる大切さである。また同様の試みをきちんとしている新潟大学の話にも感激して、奈良を後にした。

その前の日には、京都光華女子大学を訪問して、学長にお会いいただき、また来年からできるキャリア形成学部の準備をされた山本教授にもお会いした。京都光華女子大学は佛教系の学園である。別段、特定の宗教を応援するつもりで書いているのではないが、私の経験で言えば、キャリア支援、学生支援に熱心な大学に宗教系の学校が多いような気がする。

かりに佛教に限定すれば、乏しい知識ながらその教えにはキャリアにもボランティアにも通じるようなものがあるように思う。
自分が他人によって生かされているとか、自分にも他人にも仏性があるとか、いわゆる大乗の筏とか・・・エゴイスティックなキャリア観とは違うキャリア観がありそうな気がする。

奈良教育大学のように教員のキャリアを考え続けることも大切な大学個性づくりである。
京都光華女子大学のように、女性のキャリアを生涯にわたって応援する姿勢を持つことも、別の個性ある大学づくりである。

学生に個性と自律を求め、学校が個性と自律を喪っていてはいけない。

有名大企業に入った学生の数ばかりを数え、悩み抜いている学生へのケアを軽視し、立派な設備は作ったが魂を忘れ、キャリア支援とは眼の前のハードルだけを越えさせることだけと思い込んでいるどこかの大学とは違う、そうした姿勢を、二つの大学から学んで、(とはいって自分では応用ができないのが情けないが)帰京した。

私の好きな(誰の言葉か忘れたが立派な坊さんの)言葉にかくある・・・「一葉拾えば、一葉美しくなる」。

キャリア教育の試みは始まったばかり、まだまだ庭の落ち葉は落ちてくる。が一葉拾う努力はしたい。

少々病気がぶり返したが、庭掃除でもしよう。
最終更新日 ( 2010/06/08 Tuesday 23:55:59 JST )
 
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